ニペソツ山は私がエクストリームスキーの真似事を始めてから、北海道にある急峻な斜面をいろいろと探しているうちにこの山が気になりだして、ネット上の記録や友人の記録をいろいろと調べて、いつか私も滑ってみようと考えていた。
思い起こすと、私がニペソツ山に魅せられたのは、トマホーク氏の記録を目にしてから特にその想いが強くなったのだと思う。誰でも手軽に登って滑れる斜面ではなく独創的なエクストリームラインを刻み、また文字と写真だけの記録ではなくYouTubeに動画で記録が残されていた。
動画だと、写真の一部を切り取って良く見せたり、凄いところを滑ってみましたとか言ってテキストで盛って記す事は出来ない。(基本的に)フィクションではなくノンフィクションである事が重要なのだ。
上手く滑走出来なくても、動画で記録を残すことで、自分の滑走技術やスタイルを表現出来ることから、自分も記録はトップtoボトムの滑走動画を公開することに拘っている。
それからというもの、何度もこの山に挑み、滑走してきた。パウダーのデルタルンゼを滑走したものの、ピークを踏むことは出来ず、満足はしていなかった。
もちろん、自分のスキルが足りなかっただけであって、山に精通した技術がある方なら、厳冬期でも普通にピークハントを出来る山であり、滑走技術がある方からすれば、これぐらいの斜面で何故滑れないのかと思うかもしれない。
ただ、自分の中では一番難易度が高くて、簡単には滑らせてもらえない気難しくて気高い特別な山なのだ。
それだけに、失敗するたびにニペに対する想いが強くなっていったのです。
今までは、比較的機構が安定した3月に訪れていたが、その際にはピークの直下の100mが核心部で、カチンコチンに鏡面仕上げされたアイスにビビッてしまい敗退。
また違うときは南尾根からアタックするも、これもカチンコチンのナイフリッジと横風にビビり敗退。
単にクライミング系の技術が無いだけなのですけど。
そして今回、2月上旬なら、まだ暖気も入っていないし、長期に渡りウインドパックされピカピカに仕上げられる前で、ピーク付近のアイスの状態も少しは柔らかいかもしれないと思い、挑戦してみたのです。
(1月だと早すぎて、まだ雪が少ないため崖が埋まっていない確率が高い)
とにかく、一度厳冬期のピークを踏んで、滑りたい斜面を上から覗いて色々選択肢がある中で滑走してみたかった。
今回、ようやくその思いが叶った山行となった。
いつものように、AM0:00幌加ダムを出発。
出発時、気温はマイナス17℃だったが、林道を進むにつれマイナス22℃まで下がっていた。
このまま夜が明けるまで極寒の中をフル耐寒装備で進む。
林道の峠を越えたところで、ブーツのつま先が凍傷の兆しを感じたので、今回持参した「靴下用の甲に貼るカイロ」をスキーソックスに張り付ける。
温度設定が丁度よくほんのり温かい。これが無かったら、間違いなく凍傷になっていました。
ニペには色々と冬期のルートがあるが、今回は初心に戻り、林道と林業用作業道を繋ぎながら幌加川を詰めてデルタルンゼからピークを目指す。
真っ暗闇のなか平坦な森の中を歩くには、作業道を辿るほうがルートファインディングに時間を取られず、ペースを維持出来るので疲労が少ない。
いつもなら、四俣の渡渉から夜が明け周囲が明るくなって来ていたのだが、まだ2月上旬なので周囲は真っ暗闇。
四俣の半島部で、いつもの作業道を見つけるのに手間取り、少々時間のロスをしてしまった。
植林が進み、作業道の上に若い樹々が育ってきているのも原因だ。
幌加川源頭部に来ると、疎林になってくる。
マイナス22℃のナイトハイクは放射冷却も加わり、体を芯から冷やしていく。
ダラダラとした緩い登りは、心拍数が上がらず、どんどん体が冷えて眠気が襲ってくる。
寒くて眠くて、歩きながら何度か途中で寝落ちしそうになった。
この時は、久々に少しヤバいかな、と感じた。
デルタに取りついて、登り基調になると心拍数も上がり、体も温まってきて眠気からは解放された。
幌加川源頭を過ぎると、夜明け前の薄明かりで青白く聳え立つニペソツ山東壁が目の前に迫ってきた。
何度見てもこの山の威圧感は圧倒的すぎる。
風はなく静寂。今日はこの山に受け入れてもらえるのだろうか。
6時過ぎ。まだ夜は明けない。6時40分デルタの取りつきまで来たところでご来光。
山頂から徐々に、東壁が朝陽でピンクに染まっていく。
とても幻想的だ。
斜面を観察すると、デブリ痕は少なくデルタは綺麗だ。
その先の、ルンゼも荒れた感じはしない。
近接正面マジックのせいか、いつもより斜面は緩やかに見える。
今日は、想いを叶えることが出来そうな気がしてきた。
デルタルンゼの取りつきから見上げると、このルンゼも緩やかで短く感じた。
しかし、前日は爆風に吹かれており、雪面はウインドパックされている。
一見、綺麗に見えるが、雪面はハード系だ。
ここを滑るつもりは無いので、ジグを切って登る。
ルンゼを半分くらいまでシールで登りエッジが噛まなくなってきたところでツボ足に換装。
やっぱり急だなぁと思って見下ろすと、いつも通りの高度感。
そのまま稜線まで這い上がりアイゼンを装着。
ピークを見上げると、シュカブラが成長しているけど、直近に降った雪が張り付いて白い。
前回来たときは、ポールが刺さらないくらい硬くて、ピッケルが必要だった(その時はピッケルを持っていなくてこの時を機に購入)が、今回はポールも刺さるし大丈夫。
念願の厳冬期ピークを目指して、ステップを刻む。
ピークは無風、そして快晴。
何度もトライして、何度も断念した。
55歳の誕生日を目前にして、ようやく厳冬期の山頂に立つことが出来た。感無量。
この時期でも条件が良ければ、ピッケル無しで登れることがわかった。
前日の風で、斜面がウインドパックされていなければ、この上なく良いコンディション。
まず、目的のルンゼをのぞき込む。
やはり、下から眺めるのと、上から覗きこむのとでは全然印象が違う。
そして斜面がハードパックなので、この斜度では怖くて滑れない。
贅沢なんて言っていられないけど、もう少し雪が柔らかい時でないと私には無理だ。
何度も色々な角度から観察して思考を巡らせるが、滑落のイメージしか湧いてこない
やっぱり、今日はムリだ。
Bプランに変更しよう。
ドロップポイントは同じで、トマホークさんが滑走したパパスライフから分かれて、途中から左にデルタへ滑り込む感じで入るルンゼがある。
こちらはどうか。
山頂から細尾根を歩きドロップポイントへ移動したが、そこまで移動する時のリッジがカチコチで硬かった。
途中、裏側に滑落したら終わりかな、と思うくらいの怖い箇所もあった。
滑走準備をしてドロップポイントからのぞき込むと、上部は緩やかで滑れそうな斜度だった。
ここは初見なので、一気に滑らず、様子を見ながら滑り降りることにした。
まず、分岐のスパインまで滑り降り、ルンゼをのぞき込んで観察。
ノールの先は、たしか崖っぽくなっていたはず。
登っている途中で明るくなった時には、既にこの斜面が視野の陰に隠れていて崖を観察することが出来ていなかった。
途中まで滑り降りたとして、雪が繋がっていなくて、崖の手前で進退窮まり登り返すのもちょっとねぇ。
少し考えた上で、Cプランのパパスライフへ変更。
こちらは崖さえ繋がっていれば、何とかなる。
繋がっていなくても脇から巻くか、崖は高さが短いので飛び越えれば良いと考えていた。
途中まで滑り降り、脇から巻けるポイントで一度停止。
エスケープルートの観察をしてから、崖に向かう。
シュートが近づくと、どんどん落ち込んでいって吸い込まれそうな感じだ。
初見につき、ここも慎重にいく。
シュート部は雪が繋がっている。良かった。
ターンをする幅は無いので、ここはチョッカる。そのまま、ボトムへ向かって滑り込むイメージだ。
崖から下部は雪が柔らかくて、気持ち良いスピードでかっ飛ばす。実に爽快。
AプランにしてもBプランにしても、今日は失敗したらケガでは済まない、いや失敗する確率の方が高かった。
Cプランのパパスライフを選択したのには、今の自分に照らし合わせて考えてみると、色々な意味で合致していることがあり、今回はトマホークさんとの縁も感じた一本となりました。
何年もかけて攻略してきた、ニペは私にとって特別な山。
自分の自惚れと未熟さを自覚させてくれた唯一無二の山だ。
レジャーとは違った危険と隣り合わせの山行、自分の体力と滑走技術の限界を試す山行だ。
「滑れるところは登れる、登れるところは滑れる。」これが、簡単に通じない山。
ようやく、ピークに立つことが出来た。ひと区切りがついた感じでホッとしています。
ヘトヘトになるまで歩いて12時40分下山。達成感と脱力感で頭の中が真っ白だ。
もう暫く来ることは無いかなと、最初は思っていましたが、気持ちが落ち着いた今は、次回はトップtoボトムを、しかもノンストップで綺麗なラインを描いて滑走したい、という願望が湧いてきている。
あらためて考えると、自分の脳ミソは単純なのだ。
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